【CEDEC 2019 フォローアップ】AAAタイトル開発における、ハイエンドオーディオ制作技術の研究成果と取り組み事例


Cygames サウンド部 サウンドデザインチームの牧村です。
2019年9月4日(水)~6日(金)に開催されたCEDEC 2019において「AAAタイトル開発における、ハイエンドオーディオ制作技術の研究成果と取り組み事例」という講演を、弊社サウンドデザイナー安井、コンポーザー久保と共におこないました。
ご参加いただいた皆様には、改めて御礼申し上げます。

以下が講演資料となります。

本講演では、以下3項目についての解説・提案をさせていただきました。このエントリーでは、それぞれの概要をお伝えいたします。

  • 「リアルな音場表現の採取とその再現方法」:音の距離減衰や遮蔽を表現する手法に関する研究成果等
  • 「オプション設定のすすめ」:ゲームオーディオのオプション設定に関する提案
  • 「最高の楽曲を生み出すための取り組み」:海外のスタジオを使用した収録での課題と解決案

「リアルな音場表現の採取とその再現方法」

まず、サウンドデザイナーの研究成果として、ゲームサウンドの音場表現における「距離減衰」「遮蔽」「ダイナミックレンジ」といった3要素について、「リアリティの向上」および「開発工程の標準化」という目標を達成するための手法を解説させていただきました。

ゲームにリアリティのある距離減衰を導入するためのアイデアとして、ゲーム上の空間反響(リバーブ)に用いるためのIR(インパルス反応)を現実の空間から採取する際、音源からの距離を変えて複数のサンプルを採取し、それらの変化率をリバーブのウェット成分に反映させる手法を解説しました。

また、遮蔽についても、マイクと音源の間に様々な材質の壁でさえぎった状態でIRをそれぞれ採取し、それらと遮蔽のないIRとの周波数帯域ごとの差分を割り出し、遮蔽処理として利用するという手法を解説しました。

ダイナミックレンジについては、音のdB SPLを実際に計測し、おおよそ現実的な値を設定しつつ、ミドルウェア上のバスルーティングを駆使することにより、リアリティのある音量関係を実現する手法を解説しました。

「オプション設定のすすめ」

昨今のゲーム中のオーディオにまつわるオプション設定項目の、必要性と目指すべき形をお伝えしました。

「パートごとの音量」「音量の初期設定値」「出力媒体への対応」「チャンネル数の設定」「コントローラースピーカーの設定」「ダイナミックレンジの設定」「イコライザーの採用」について、各項の解説と、それぞれミドルウェアを用いた際の導入手法を解説しました。

「最高の楽曲を生み出すための取り組み」

今回ロンドンのアビー・ロード・スタジオで音楽収録を行った際のスタジオ選び、オーケストラの特殊演奏収録、そして現場で感じたことの3つについてお話しさせていただきました。

まずスタジオを選んだ理由についてお伝えしました。本作の世界観とコンセプトを考慮し、「激しめの海外映画サントラに慣れている、豊かな響きと空気感が録れる海外のスタジオ」での収録を目指したのですが、人気のスタジオの予約は埋まっていて、思うようにはいきませんでした。そんな中「challenge(すでに予約が入っている日程の中で、使わない日があれば使わせて欲しいと申し入れすること)」に成功し、数日だけスタジオを空けてもらえたため、アビー・ロード・スタジオで収録する運びとなりました。

次に本作の音楽のコンセプトと、それに沿ったオーケストラの特殊奏法の収録についていくつか例を上げつつご紹介しました。シンセサイザーの音と生のストリングスの音を重ねて新しい音色にしてみる、楽器を叩く奏法やホラーなどでよく使われる奏法を収録するなどの方法で、作品の世界観を演出しつつオリジナリティを出すことを目指しました。

最後に、現場で感じた2つのことについてお話ししました。「クリエイティビティがぶつかり合う雰囲気」について、素晴らしいアイデアが数多く出てくる現場で迅速に判断を下していかなければならない難しさと、現場にいる全員で音楽を一緒に作っている実感をお伝えしました。また「音楽のために、チームのために」と題して今回のコピーイストさんが行っている細かい配慮についてご紹介しました。

さいごに

まず音場表現については、いずれの手法も、特別に高度で先端的なテクノロジーを用いるものではなく、マイクや騒音計さえあれば誰でも再現可能な手法です。CEDECのセッションを受講いただいた皆様に、それぞれのゲーム開発に応用可能な、実利のある知見を提供できたのであれば幸いです。

次にオプション設定については、ユーザーの使用環境に最適な音を提供するとともにユーザーに不便をかけないようにすることを念頭に、ゲームの仕様に合わせ熟慮して用意すべきであることを、皆様にご認識いただきたく存じます。

そして音楽収録については、海外収録への壁は決して低くはありあせんが、実施してみて予想以上の結果と体験ができることを知りました。今後の選択肢の一つとして、少しでも海外での音楽収録を身近に感じていただければ幸いです。

Cygamesでは今後も、新しいことや面白いことにつながる技術やアイデアを追求し、ユーザーに喜んでいただけるコンテンツを創っていきます。ご賛同いただける方は、ぜひご一緒に、世界に通じるタイトルを創りませんか?

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